地下空港10周年記念対談 『轟きの丘の上』 第一弾 主宰・伊藤靖朗

地下空港10周年記念対談 『轟きの丘の上』 第一弾 主宰・伊藤靖朗

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九月に控えた、地下空港結成10周年記念公演『 轟 き の 山 脈 』。
十年目という節目の年に、初のミドルラン(14回公演)でお届けするこの公演の上演に先立って、
本作品においての重要人物、また地下空港を十年間導き、
支えてきた人物が語る特別対談企画『轟きの丘の上』がスタートします!


全三回にわたってお送りするこの企画の第一弾は、
立ち上げから十年間、絶えず地下空港をリードし続けてきた主宰・伊藤靖朗。
十年という長い時間で、彼はどのような変化をしてきたのか?
そしてそれを踏まえ、九月の新作では何を描こうとしているのか?
その胸の内を、地下空港の広報部長・一戸宏と共に語ります。



(聞き手:一戸宏)


<<『轟きの丘の上』 第二弾 女優・川根有子>>はこちら

<<『轟きの丘の上』 第三弾 デザイナー・南部隆一>>はこちら



ー10年で変わったこと、変わらないこと。ー

ヒ さて、今年で10周年なわけですが、靖朗さん自身どうですか?実感はありますか?
ヤ そうだねぇ、、、ありがたいことに、やっと事務所に所属させて頂いたりして、10年かけてようやく入口まで辿り着いた!
  ような感じがありますね。もちろん地下空港全体としても、少しずつ、でも着実に前に進んでいると思うしね。早くもなく、
  遅くもなくっていうところかなぁ?
ヒ そうだよね。じゃあこの10年で、靖朗さんが変わったところってどんなところですか?
ヤ やはり自分の中での考え方が段々と変わっていったこと、だと思います。昔は、西洋的な個人主義のような考えをどこかで
  持っていたんだけどそれよりも、人と人との関係、というものを中心に捉えるようになったことが一番大きな変化ですね。
ヒ ほうほう。それはどんなきっかけで変わっていったんだろう?
ヤ 出会い、ですね。大学在学中にビルマへ旅したことも大きいんだけど、やっぱり地下空港を続けてきた中で、奥さんを始め、
  たくさんの大切な仲間に出会えたこと。ある時、自分の近くで色々なものが崩れてしまった時期があって、その時個人という
  ものの限界を強く感じたんだけれど、そこに光を当ててくれたのが、そういった大切な人と築いてきた関係性だった。
  その崩れたものがなんだったのか、どうして崩れてしまったのか考えたときに、自分が人に支えられて生きてきたんだなぁ、
  とはっきり気が付いたんだと思います。

ヒ なるほど。じゃあ逆に…、10年間ずっと変わらなかったものってなんですか?
ヤ うーんとね、、、これは僕が演劇を始めるきっかけの話になるかもしれませんが、僕は中学三年生の時に地元静岡の代表
  としてカナダに行ったことがあって*(ページ最下部「幻の対談」参照)、そのときからずっと、3つの欲望が自分を
  形作っているんです。
ヒ と、言うと??
ヤ まず一つは、社会を分析すること。もう一つは、創作し表現をしたいということ。そして、それらをできる限り多くの人に
  伝えていきたいっていう気持ちが強くあって、その3つが全部合わさった形でやっていけるのが演劇だったんです。その動機は
  ずっと根本にありますね。

ー社会の中で、劇をやる。ー

ヒ 確かに、地下空港の作品には社会に対するメッセージがあるんだということを、僕自身観て強く思います。時代の中での
  強者と弱者がミックスして描かれているというか…。でもそこで疑問なんだけど、基本的に芸術家って良い意味でワガママ
  じゃない?笑 そこにまた価値があったりすると思うんですけど、そういう社会性とアーティストであることとのバランス
  って、靖朗さん的にはどうなんですか?
ヤ うん、確かに僕も我が強いですね。笑 でもそれは、自分の信念を曲げたくないっていうことなんだと思う。世の中に対して
  諸手を挙げてイエスとは言えないような状況の中で、劇というものを通じて、もっと人と人とが許しあえるような文法や、
  関係性を僕自身探してて、そしてそれを考えていくことの価値を信じてやっているんですよね。ただ演劇をやることって、
  会社とはまた違って、空き地なんてないこの世の中で、劇をやるための領域自体を自分自身で作ることが求められる。そこで
  自分の信念を貫き通すということは、時にある意味ワガママとみられるかもしれない。でも、絶対に曲げないぞっていうもの
  を持ち続けていたんだと思います。
ヒ なるほど。でもそれがトップに立つ人の姿なのかもしれないですね。誰かがひっぱってくれるわけじゃないし、自分の信念に
  ひっぱられるような。
ヤ そうだね。日本社会を外から見つめ直すっていうのは、劇作家だからこそできること。その価値をとにかく信じて、やって
  いきたいですね。

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ー人はなぜ、「登る」のか。ー

ヒ では、その十年があっての九月公演『轟きの山脈』ですが、今回は「山」や「鉱物」という自然界よりなものがテーマ
  になっていて、どこか今までとは少し違うような印象を受けます。
ヤ いつも脚本の構想を練るときに、理由もなく最初にあるイメージに捉われることがあります。例えば『OLと魔王』では、
  とにかくいきなりお茶の間に魔王が現れる!ということが頭に浮かんで、そこから物語が始まっていったり、前作
  『ストラップ・オン・ザ・サードクライシス』ではウサギというモチーフが頭から離れなかった。それが今回は「山」
  なんです。
ヒ 興味深いですね。
ヤ 人は長い時間をかけて、高みを目指して、より良き何かを求めて山を登っていく。もちろんそこには10年間一歩一歩
  歩んできた自分たちの姿もありますが、それだけじゃなく、社会の発展や技術・文明の進歩も、そういった地道な積み重ね
  でここまできたんだと思います。でもそのような文明の発達と同時に、このままでは環境が破壊され、人間も滅びていく
  んじゃないか?というような不安な空気も漂っていて。じゃあ一体、登ることの意味とはなんなんだろう?人はなぜ「登る」
  んだろう?考えてみると、山には鉱物や化石が埋まっている。鉱物や化石は、何億年前からそこにあり、すでに滅びた者も
  いる。時間を積み上げていくようで、遡っていくような、どこかパラドキシカルな感じのするストーリーになるかもしれま
  せんね。
ヒ なるほど…。その物語の結末に、希望はあるんでしょうか?
ヤ それはまだ僕にもわかりません。自分自身で、見つけなくちゃいけないものかもしれない。大変です。とにかく、今回も
  大切な作品にしたいし、笑って泣ける、切ないお話にしたいですね。

ヒ 期待しています!それでは最後に、お客様に向けてメッセージを。
ヤ ここまで、じっくり悩んで山登りをしてきました。登り続けるだけが人生だとは思いませんが、きっと、山の中腹で見える
  景色は素晴しいものになるはず。なのでまずは高みを目指して!登った先の景色をしっかり仲間と共有して、それをお客様
  にできる限り鮮やかに、パワフルにお伝え致します!是非是非是非!!劇場まで足をお運び下さい!!
ヒ よっしゃ!一緒に登って行きましょう!!



十年という歳月をかけて地下空港を率い、
「山」を登り続けてきた伊藤靖朗。
その中で培ってきたものを見つめたその先に
新たに描き出すストーリーはどのようなものになるのか?!

皆様是非!劇場にてご覧下さい!!



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主宰  伊藤靖朗
聞き手 一戸宏(広報担当)
写真  かとうちなつ


関連リンク

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伊藤靖朗プロフィール

幻の対談 第三弾 『自画像』(*についてはコチラ!!)

伊藤靖朗公式ブログ『一悶着会議』