地下空港10周年記念対談 『轟きの丘の上』 第三弾 デザイナー・南部隆一

地下空港10周年記念対談 『轟きの丘の上』 第三弾 デザイナー・南部隆一

nannbu1


間近に迫った九月新作公演『轟の山脈』。
地下空港十周年を記念する本公演に向けた特別対談「轟の丘の上」も、
ついに最終回となりました。


最後を飾るのは、地下空港のロゴマークを手掛けたデザイナー・南部隆一。
本作のチラシはもちろんのこと、昨年末の『幻のセールスマン』、
三月の実験公演『ストラップ・オン・ザ・サードクライシス』で手掛けたチラシは
その強烈なインパクトで大きな反響を呼びました。


その南部氏が、自身のデザイナーとしての思いについて、
そして地下空港の存在について、主宰・伊藤靖朗と共に語ります。


(聞き手:伊藤靖朗)


<<『轟きの丘の上』 第一弾 主宰・伊藤靖朗>>はこちら

<<『轟きの丘の上』 第二弾 女優・川根有子>>はこちら



ー社会にコミットするための、デザイン。ー

ヤ えーとまず、南部君がいつ頃からアートディレクションのようなことをやっていたのか聞きたいんですけど、大学時代は映画を
  撮ったりもしてたんだよね??(注:二人共、ICU=国際基督教大学卒)
南 そうだね。映画を撮ったり、VJをやったり、色んな形で映像メディアアートをやってましたね。
ヤ うんうん。美大とかではなくてICUに進んだのには、何か理由があったの?
南 うーんとね、、、高校の頃から、映像かデザインの道に進みたいなとは思っていて、美大に行きたいと思った時期もあったん
  だけど、その頃まだ、頭が整理されてなかったんだよね。そこでまずは頭からだと思って、ICUに行きたいなと。だから大学
  では、技術よりもまずものの見方が身につけばいいなと思ってました。哲学とかも好きだったしね。
ヤ なるほど。高校時代はどんなものに興味を持ってたの?
南 映画とサルトルと麻雀、かな。笑
ヤ すごい組み合わせだね。笑
南 ひねくれてたんじゃないの?笑 歪んでいた思春期。笑
ヤ そういう映画や哲学にのめり込んでいたというのは、何かに対する反抗の表れだったのかな?
南 いやいや、というよりもただ、価値基準を探していたんだと思うよ。
ヤ ほうほう。なんというか、そこからどういう風に南部君自身が表現をすることにつながっていったんだろう?
南 うーん、なんか、映画にしろデザインにしろ、「見てるだけじゃだめじゃん」って思って、自然とやり始めてたかなぁ。でもね、
  最近思うのは、僕は「表現」する必要はないなってことなんだよね。
ヤ と、言うと??
南 つまり、僕自身の中には、特に何か声を大にして伝えたいことっていうのはないんだよね。僕にとってのデザインは、あくまで
  情報を整理して形にすることであって、自分の内的欲求を「表現」するものではない。そういう意味では、これはアートとは全く
  別のものだよね。
ヤ へぇ!興味深いね。じゃあ、南部君がデザインをやる上でのやりがい、みたいなものってどういう所にあるのかな?
南 社会的にコミットしてるものをやりたい、ってことかな。アートは、コミットしなくてもできるものじゃない?それよりも、
  コミュニケーションの仕組みを作ったりだとか、社会の仕組みを変えていくようなものの方が、やってて楽しいですね。

ヤ なるほどなぁ。じゃあ、南部君がこれから目指していきたいデザインってどういうものですか?
南 グラフィックデザインっていかに上手に情報整理をして、伝えたいメッセージを伝えるかっていう作業。もちろんそこにも
  醍醐味はあるんだけど、僕が一番やりたいのは、今少し話したように社会と関わるデザインなんだよね。例えば、広告にしても
  テレビにしても、あるいは舞台にしても、基本的に一方通行じゃない?靖朗のような脚本家や役者さんは表現をする技術を
  持っているけど、見る人は発信できない。そういう人たちが表現できる、発信できるような仕組みをデザインしたいなって思う。
  職人的・表層的な情報デザインだけじゃなく、何かそういった社会構造からデザインしていくことができないかなって考えてま
  すね。でも、今は模索中ですけどね。笑
ヤ 尊敬するデザイナーとかは誰かいるの??
南 えーとね、ブルース・マウっていうカナダのグラフィックデザイナーがいるんだけど、その人は「Jump Fence, 
  Avoid Field(分野に捕われず、垣根を越えろ)」っていうコンセプトを掲げてて、普通のデザインだけじゃなく、
  ナショナルパークのプランニングや、建築家と組んで仕事をしたりとか、本当にジャンルにとらわれない活動をしてて。自分も、
  グラフィックデザインをベースにしつつも、それにとらわれずに色々なことに挑戦していきたいですね。

nannbu2


ー靖朗の世界と、人々との接点を探して提示するのが仕事。ー

ヤ そっか!いやー、普段聞けない話が聞けて面白いね。それでは、今度は地下空港についてなんだけど、『幻のセールスマン』
  『ストラップ・オン・ザ・サードクライシス』と、チラシの反響がすごかった!(最下部画像参照)地下空港を知らない人で、
  チラシを見て観に来てくれたっていうお客様がたくさんいたもんね。
南 いやーそれはもう、本当に嬉しい限りですね。
ヤ で、初めて南部君に作ってもらったのがなんと!地下空港のロゴマーク(最下部画像参照)なんだよね!
南 そうだね。笑 あれを作った当時は、ロンドンへのデザイン留学から帰ってきたばかりで、何もわからない所から必死に作った
  記憶がありますね。技術が身に付いた今、改めて見直してみるともちろん未熟だったなと思う部分もあるんだけど、ほんとに一
  から色々考えてやったから、かえってその分面白いものができたっていう気もしてるんだよね。
ヤ いや、僕は今でもすごく気に入ってるよ!「王道的なものにしたい」って南部君に注文して、期待通りのものが出来上がって
  きたぞ!って思ったのを覚えてます。
南 ありがとう。笑
ヤ 地下空港の作品や、世界観についてはどうですか?
南 もちろん、好きだから手伝ってるんだよね。でも、、、なんてか、混乱してるじゃん、靖朗の世界って。笑
ヤ えーと、、、まじで?笑
南 いや、そこが面白いところだとは思うんだけどさ、もちろん。でも最初にチラシ作り始める時にイメージ聞いてもさ、
  「山が轟いてんだよな」とか「ウサギがなにするんだよね」とか・・・「わかんねーよ!」って感じだよね。笑
ヤ 申し訳ない。笑
南 いやいや。笑 ただ、デザインする僕自身は反対のタイプでさ。どっちかっていうとシンプルなものを作るし、靖朗みたいに
  ドロドロもしてない。だから実際やりにくい面もあるんだけど、でもその反面、絶対に仕事ではやらないような実験的なことが
  できて、楽しいんだよね。あと、靖朗のディレクションはスピーディーで的確だから一緒に仕事しやすいよ。
ヤ それなら良かった!笑 でも確かに、南部君と僕とタイプの違う二人で作るからこそ、エッジの効いたものが生まれるっていう
  のはあるのかも知れないよね。
南 そうだね。世間の人々が見たいイメージや世間の人々に対するイメージっていうようなものと、靖朗の世界観との接点を探して
  提示するっていうのが、僕の仕事だと思うよ。
ヤ なるほど・・・!!いやはやもう、ありがたい限りです。それでは最後に、お客様に向けて一言お願いします!
南 デザイン含めて、関わっている人それぞれが気合い入れて作り上げている舞台なので、混乱している部分も含めて、是非見に
  来てください!!
ヤ ありがとう!!!



2005年の『ロマンの雲』以来、
地下空港の世界を表現し続ける南部隆一。

主宰・伊藤靖朗との相乗効果で描かれる、
そのエッジの効いたデザインの先には
一体どのような世界が轟いているのか?!

是非ともご期待下さい!!

中野の劇場MOMOにて、地下空港一同、お待ち申し上げております。




地下空港ロゴマーク(2005年)
logogo

『幻のセールスマン』(2008年)
maborosi-omote

『ストラップ・オン・ザ・サードクライシス』(2009年)
strap-ad.jpg


デザイナー 南部隆一
聞き手   主宰・伊藤靖朗
写真    かとうちなつ


関連リンク

<<『轟きの丘の上』 第一弾 主宰・伊藤靖朗>>

<<『轟きの丘の上』 第二弾 女優・川根有子>>